SSブログ

“重い期待”が実現――2009年晩夏 [社会批評・評論]

 私は、こんどの選挙に対する気持ちを“重い期待”と表現したことがあった。それは、選挙後の民主党の動きを見てもわかるように、これから、民主党がやろうとしているのは、日本の伝統的な政治システムの改良に過ぎないからである。無論、それは非常に大切なことだけれど、私には、これからの政治の方向が、労働者福祉へ向かうかどうかのほうが、数十倍の関心事なのだ。だから、私の本心では、民主党政府実現のために、多くの小選挙区で候補者を立てずに、票を民主党へ差し出した共産党が、比例区でどこまで伸びるかに興味があったのだが、現状維持の9議席というのが、限界だったようだ。一部のメディアが分析しているが、民主党の比例区結果を見ると、共産党員が電話で「小選挙区は民主、比例は共産」と依頼しても、もともと共産党が強い地方では、民主の爆発的な比例区得票に対応した、比例区の得票が取れたのに、弱い地方では、共産党が票読みしたにも関わらず、比例まで民主党に流れたことを物語っている。どうして、私がこんなことにこだわるかというと、民主党は政策的に“労働者福祉”を掲げる政党ではないし、あくまでも保守政党としての余地を残しながら、歴代保守政権の改良をしていこうという性質を持っているからだ。
 だから、ヨーロッパの有権者たちは、民主党のような改良主義の政党と抱き合わせで、日本の共産党のような徹底左翼に、批判政党としての椅子を、ある程度は与える工夫をするのだが、いまの日本では過去のような、中選挙区とはいえ40議席などという力を、共産党の地方組織自体が持っていないから、今後も民主党政権が続くとしたら、競馬のオッズではないが、選挙区での民主、比例区の共産という“2連単”の馬券を考えて、投票所に向かうべきではないだろうか。私がなぜ、こんなことを書くかというと、今回の選挙でテーマとなった派遣労働者関連法規の違法性、後期高齢者医療問題、母子家庭への給付金削減等々を、当初、国会で取り上げたのが、唯一、共産党だけだったからである。数年前までは、民主党も自民公明政権に追従することが多い、困った政党であったが、小沢体制になって、国民の“空気が読める”政党になった。とはいえ、民主党政権に対して、自民党は様々の懐柔やら、保守回帰への陰謀を仕掛けてくることが予想されるから、本当は15人くらいの共産党衆議院議員が必要だった、と私は思う。今回の選挙終盤、自民党は従来、考えられなかったような作戦に出た。それは、堂々と、自民党の名前を掲げた“アカ攻撃”で、例えば、8月23日の日曜日に配布された小冊子のタイトルは、驚くなかれ「知ってビックリ 民主党 これが実態だ!!」というもの。いままでの政策論争は効果がない、と判断したのかどうか、突如、昔ながらの“アカ攻撃”に打って出たのだ。
 従来は、この種の謀略パンフやビラは、公明党の専売特許だった。10年以上前の選投票日直前、共産党を意識した創価学会、公明党が、共産党のイメージダウンを狙ったビラを撒いたことがある。しかし、この時は、発行元不明だった。だが、今回のパンフは「自民党」を名乗り、ご丁寧に、このパンフが違法なものではなく、日常的な政治活動であるから、選挙中でも許される、ってな断りまで入っているのだ。しかし、民主党を“暴力革命”とダブらせるような表現は、いくらなんでも、論理的に無理があるし、自民党の日常的な政治活動からは、明確に逸脱していると思う。しかし、冷静に判断すると、このパンフの発案者、実行責任者は、細田幹事長ではないだろうか。というのは、大分前に、民主党など野党が派遣労働者に対する政府、行政の違法性を追及した時、細田幹事長は「民主党がやろうとする政策は、社会主義だ」とまくし立てたことがあるからだ。しかし、そもそも、現在の民法や労働法など、労働に関する様々の法制度は、敗戦後にできて、戦後の高度成長の原動力にもなってきたものであるから、「昔の労働行政に戻せ」「新自由主義の労働実態は、戦前の無権利労働と同じだ」という野党の主張は、別に過激なものではなく、先進国では当たり前の制度に過ぎないのだ。だが、この自民パンフのような主張をすれば、民主党の“右”の連中がホメてくれると思ったのかどうか、ここぞとばかりの“論理”が展開されていくのである。そして、サブタイトルが、「労働組合が日本を侵略する日 民主党にだまされるな!」、そして、「もしも民主党が政権をとったら…」「革命や闘争という言葉をいまだに使うような労働組合の思うがままの政策」が実行されるぞと、国民に対して警告している。だが、今どき、「革命」なんて用語を使う労働組合があるわけがない。私は、40年以上前の20台前半に、組合員300人程度の労組で役員をしていたことがあるが、組合のビラで「革命」なんて書いたら、みんな組合員は組合を辞めちゃう、はずである。それが、正常な感覚。“中核派”じゃあるまいし。で、ついでに「闘争」という言葉を解説するが、この言葉を使えないのなら、“ボーナス要求”のステッカーを休憩室に貼ったりすることもできない。労働組合ってのは、管理職に対する何かのお願い1つも、「闘争」という仲間言葉を使うのが、万国共通の習わしだから。
 それにしても、“組合闘争”という国民的な、労働行政上の権利を、「革命」という政治的な用語で混同させる、昔ながらの“アカ攻撃”には、焦りを通り越した自民党の“狂気”さえ、感じさせた。こうして、同パンフは、具体的には、民主党がマニュフェストで掲げる、会計監査など企業の“情報公開”を求めることが、企業の自由な経営を損ない、倒産を招きかねないと、論理を展開するのだ。欧米では当たり前の、資本主義のルールが、日本では認められなくなったのは、小泉、竹中路線の結果だが、まだ経済界では残る新自由主義の金科玉条に加えて、今後は民主党に対する“思想攻撃”が新たに加わるのだろうか。いずれにしても、民主党政権とはいえ、今後も共産党の出番は多いはずだ。しかし、何といっても、9議席は少ない。これでは、応援団としての役割も、半減する。議会内での交渉権を獲得するには、最低11は必要だし、これからの情勢は有権者に、いろんな政治的判断を求めていくのだろう。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。