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明治生まれの父が愛した作家――哀しき人々の群れ《荷風断章》 [社会批評・評論]

 私の父は明治の生まれであるが、日露戦争も大東亜戦争も行っていない。大東亜の方は年齢が行き過ぎていたが、日露では体格が貧弱すぎて落ちたらしい。生まれたばかりで父親を亡くしていたから、一人息子を戦争に取られずにすんだ母親は、さぞや、ほっと胸をなでおろしたろう。私は、この祖母を知らない。私は末っ子で、父が50の時の子供であるから、知らなくて当然なのだが、写真で見ると、いかにも毅然とした明治の女の風貌で、子供ながらに知らなくて良かったという気がしたものである。
 祖母の影響なのかどうかはわからないが、父が時代の新しい息吹に敏感だったことは、平民新聞の読者ということでもわかる。長野の高等小学校を出てから、貧乏な母子家庭の父は、臨時雇いの郵便局書記に就職するが、この頃、大八車に積んだ雑貨や野菜に隠して売られていた平民新聞を知ったらしい。平民新聞というのは、明治政府の下で、初めて発行された労働者の政府の実現を標榜する政党の機関紙ではない新聞である。戦前、言論の自由が制限されていた時にも、大衆に向けてロシア革命の成立を詳しく報道したり、飢饉の様子を伝える新聞があったのだ。
 いまの日本には、平民新聞のように非政党の立場で発行されている反政府的なジャーナリズムは雑誌を含めて全国的に皆無だが、その原因は自分からお金を払っても言いたいことを伝えたいというジャーナリストがいない、ということに尽きるのかもしれない。もっとも、本人からすれば、俺はそういうつもりで書いているという人はいるだろう。だが、ちっぽけな田舎の書店に雑誌の買い取りを義務づけたり、超大手の印刷所で印刷配本するような雑誌を、平民新聞と比べるわけにはいかないのだ。執筆から編集、配布、販売や購読に至るまで、後々、明治政府と官憲の厳しいチェックを受けた新聞は、日本の近代史のなかで平民新聞以外にはないと思われる。
 日本が軍備を増強し、かつての列強のような帝国主義と侵略を目指し始めたころ、明治天皇の暗殺を企て列車に爆弾を仕掛ける事件が起きた。大逆事件と呼ばれる事件であるが、この首謀者とされるメンバーが平民新聞の編集、発行にかかわっていたというので、全国的に平民新聞の読者までが捜査の対象となり、私の父などは仕事を探しに上京した後まで、特高警察のマークにあっていたという。上京後の父は、通信社の編集見習いや歌舞伎雑誌の編集をしたらしいが、このころの執筆者に荷風がいたらしい。そのためかどうか、戦後しばらく、仕事がなくなってぶらぶらしている時の父の愛読書が荷風の日記であった。
 永井荷風と言えば、「つゆのあとさき」「墨(本当はサンズイがある)東奇(糸ヘン)談(言ヘン、西、早)」などの耽美小説の作家であり、父も読んだはずだが、そういう子供にとっても読みたいと思う小説は、家の書棚にはなく日記があるだけだった。私がそういうものを読んだのは、中学校の時に家の2階に下宿をしていた学生の部屋に忍び込んで、斜め読みした時である。確か、「四畳半…」も、そういう危機的状況下で読んだと思う。いずれにしても、私には、父がなぜ荷風の日記を好んで読んでいたのか、かなりの間、わからなかった。しかし、ある時、荷風が書いた浮世絵に関する文章を読んで、少しは当時の父に近づいたような気がした。それは、北斎が描く江戸の川や街や、江戸から見える富士の景色を「哀しい色」と表現していることだった。
 「日和下駄」という東京の街まちをスケッチ風に書いたエッセイでも、荷風はけっして美辞麗句で淡々と東京案内をしているわけではない。むしろ、街や川の汚れ具合を微細に指摘したり、寺院や公園の木々を通してみる富士などの遠景をたたえているのだ。興味深いことだが、荷風よりもずっと前の明治初期から中期の作家、国木田独歩が書いた「武蔵野」にも、現在の所沢市である小手指ヶ原付近の開発ぶりを嘆く下りがあって、環境破壊が日本の伝統でもあることがわかる。土地や川の汚染や破壊は人心の破壊でもあるのだが、荷風はニヒリストではないから、街の様子の変遷を否定的に捉えてはいない。むしろ.彼の小説の特徴でもあるのだが、優しさをもって、身をひさぐ女たちの生活に入りながら、私娼や女給たちとの交流を通して、つかず離れずの探求者に徹するのである。
 荷風が表現した「哀しさ」とは、滅ぶものへの「哀しさ」ではなく、生きるもの、美しいものに感じた「哀しさ」ではなかったのかと思わずにはいられない。江戸の街から見る夕焼けに浮かぶ富士山の光景も、美しいけれども無常の美であり、人生の悲哀を感じる夕焼けの空であったに違いないと思う。同じことは、荷風の日記や小説にも感じることができて、戦時中、荻窪の実家に一人残り、町内会の手伝いをしながら、無差別空襲の中で明日ともしれぬ命の覚悟を迫られていた父は、荷風の文章に共感を覚えていたのかもしれない。


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 勝俣一生  永井  塚林弘樹  奥田 

世耕弘成 統一教会     



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by  勝俣一生  永井  塚林弘樹  奥田  (2020-05-17 20:42) 

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